スタッカートHDに搭載された「ファイアリングピンセイフティー」って何?

シングルアクションピストルの名作「コルトガバメント」。

ピースメイカーを始めとするシングルアクションで撃てるリボルバーのトリガーフィーリングをそのままに、シングルアクションで連射できるオートマティックピストルとして、1907年にジョン ブローニング(John Moses Browning)が発明しました。

アメリカ軍が制式拳銃として採用したのが1911年。1985年にベレッタM9が採用されるまで、「Model 1911(M1911)」と呼ばれ親しまれてきました。

1911のメカニズムを継承し、マガジンをダブルカラムにすることで多弾倉を可能にしたのが「2011」で、1990年代(1993年)にSTI International(現Staccato)のヴァージル トリップ(Virgil Tripp)が発明しました。

銃の本体部分にあたるフレームを、スティールのレール部分とポリマーグリップに分けてモジュール化。1911のトリガーフィーリングを残しつつ、高速射撃やリロード性能が強化されました。

シングルアクションならではのショートストロークでキレの良いシンプルなトリガーフィーリングは、多弾倉化されたダブルカラムマガジンと相まって、法執行機関関係者やスポーツ射撃シューターに人気です。

2011にはファイアリングピンセイフティーがありません。そのため、トリガーフィーリングはスムースですが、誤って銃を銃口から地面などの堅いところへ落下させた時に、ファイアリングピンの自重でチェンバー内の弾薬のプライマーを叩いてしまう可能性がありました。

1911には、1983年にコルトから発表された、ファイアリングピンセイフティーが搭載された「シリーズ80」というモデルがありましたが、2011には採用されませんでした。

SAO(Single Action Only)モデルのみとなる今回の発表は、マニュアルセイフティー付き=マニュアルセイフティーを外さないと撃てないオートマティックピストルに回帰したカタチにも感じます。

どのようなものかは確認できていませんが、マニュアルセイフティー、グリップセイフティーに加え、ファイアリングピンセイフティーが付いているとのこと。

2011にはシリーズ80のようなファイアリングピンセイフティーが付いていないので、銃口から落とすとファイアリングピンの慣性でプライマーを叩く可能性がありました。

M17のようなトリガーバーをロックするマニュアルセイフティーではなく、シアをロックする1911系のそれとともにファイアリングピンセイフティーが付いたのだとしたら、トリガーストローク、特にクリープからブレイクまでのストロークが少ないシングルアクションピストルの安全性が高まり、これを好む人にとっては安心感が増すことでしょう。

2011は競技用ハンドガンとして開発されたため、極限まで軽くシャープなブレイク感や、素早く正確なトリガーコントロールを最重視しました。トリガープルを重くし、感触を濁らせるファイアリングピンセイフティーの搭載は、許容できなかったのでしょう。

「(2011に)ファイアリングピンセイフティーは不要」という判断がなされた理由として、IPSC/USPSAなどの競技シューター、LE(法執行機関)の特別部隊など、ガンハンドリングの習熟度が高く安全管理も徹底した、熟練者やプロの使用を想定した銃だったことが想像できます。

2011が発明されて32年経った2025年、ついにファイアリングピンセイフティーが搭載された2011が、Staccato HDとして発表されました。

STIの頃から一貫してきた、今までの2011プラットフォームの方針とは異なる、運用環境と安全性に対する要件の変化に対応するためです。

Staccato HDが、ファイアリングピンセイフティーを採用した理由は以下の通りです。

安全基準適合

LE・軍・州政府機関の調達基準に対応するため

Staccato HDは、LE(Law Enforcement: 法執行機関)およびミリタリー向けモデルとして設計されています。そのため、以下のような規格への準拠が求められました。

※ CA DOJドロップテスト: 撃針セイフティーの搭載により合格しやすくなる。

※ 米連邦政府・州警察調達基準: 一部組織では「撃針セイフティー必須」とされています。

※ 公的機関の安全マニュアル: 拳銃を落としても絶対に暴発しない設計が必須。

機械的なファイアリングピンブロックを追加することで、規格を確実にクリアすることができます。

訴訟・責任対策

万が一の事故に備えた安全設計

軍・法執行機関では、万が一の事故でもメーカー責任が問われる可能性があるため、パッシブセーフティ(例: 撃針ブロック)を搭載することが「保険」になります。これは、GlockやSIG、Beretta、HKなどが、すべて撃針ブロックを標準装備しているのと同様の理由です。

技術的進歩

トリガーフィーリングを維持しつつ搭載できる設計

Staccato HDでは、新設計の内部パーツにより、ファイアリングピンセイフティーをトリガープルにほとんど影響を与えずに組み込むことに成功しています。
Glockのようなトリガーでブロック解除する方式とは異なり、より滑らかで精密な感触を維持できるよう工夫されています。
実際に撃ってみましたが、HDのトリガーフィーリングは、依然としてStaccatoらしいシャープなブレイクを保っています。

ブランドの進化

プロフェッショナルツールとしての立場を強化

Staccatoは近年、単なる競技志向のカスタムメーカーから、法執行機関/プロフェッショナルユースの信頼ブランドへと移行しています。今回、新たにラインナップしたStaccato HDはその象徴的モデルであり、

「ハードユースに耐えるプロフェッショナルな2011」

という新たなブランドイメージを体現していて、安全性を最優先に設計された初のStaccatoモデルとも言えます。

時代と共に進化し続けるスタッカート社、今後のモデルも楽しみです!

使用する銃について(グアムシューティングアカデミー)

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